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~特集~ 名義預金、ヘソクリ預金等について
ここでは、特集として名義預金等について触れておきたいと思います。今後の相続税の申告と深い関係があるためです。
特に相続税の申告対象になりそうな方は、マイナンバー制度の導入と相まってかなりの関心をお持ちだと思いますので、ぜひ、ご一読ください。
(1) 現金や預貯金の申告漏れが多い
相続財産の申告内訳は土地や建物などの不動産が50%以上を占めていますが、申告洩れの財産は現金や預貯金が40%近くで、土地や有価証券が10%超という調査結果があります。これは、土地や建物などの不動産は名寄せができますので、申告洩れがあっても課税庁で簡単に把握できるため、比較的真面目に申告しているためと考えております。一方、預貯金についても課税庁が金融機関に問い合わせることで比較的簡単に把握できますが、特にタンス預金については本人が隠しておけば発見されにくいと思われますが、ここに一般の方の考え違いがあるように思います。これが、ヘソクリ預金と呼ばれるものです。そこで、この項では特に申告洩れの多いと思われる名義預金やヘソクリ預金等について記述いたします。
(2) 財産の名義変更通達について(いわゆる名変通達)
まず、相続税基本通達 9-9 (財産の名義変更があった場合)という次の規定があります。
(相基通 9-9)『不動産、株式等の名義の変更があった場合において、対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取り扱うものとする。』
ここで注意すべきことは、この規定の贈与には現金や預貯金は含まれていないということです。このため、税務調査においては、必ずといってもよいほどもめる原因になることが多いようです。
① 親族名義の預貯金の申告洩れ
税務調査でいちばん多いケースは、親族名義の預貯金だと思います。一般的な考え方では、自分名義の預貯金は当然自分のものだと考えますが、税務上では少しばかり考え方が異なります。それは、上の特別の規定があるためです。
まず、民法上の贈与とは、『当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えるという意思表示をし、相手方がこれを受諾することによって成立する契約をいう』とされています。ここでの最大の問題は、親族名義の預貯金やヘソクリ預金に贈与が成立しているか否かです。
例えば、被相続人が相続人名義で毎年贈与税の基礎控除の範囲内で預貯金の預け入れを行っているケースでは、被相続人が相続人名義の通帳や届出印などを保管・管理しているときは、贈与契約は成立していないことになります。贈与契約が成立するためには、受贈者が通帳や印鑑を管理し、自由に相続人の意志で預け入れ・引き出しができることが要件になります。
贈与税の基礎控除額(110万円/年)を超える贈与があった場合には、当然、贈与税の申告が必要になり、また、贈与税も受贈者が納付し、さらに、通帳や印鑑なども受贈者自らが管理していることが贈与成立の要件になります。
② 相続開始前に引き出した預貯金の申告洩れ
被相続人の入院期間が長期にわたり、かつ、医療費が多額になるようなケースでは、被相続人の口座から預貯金を引き出し、入院費用の支払いに充てるのはよくあることです。このような場合には、明らかに被相続人の入院費用として使用した金額は問題になりませんが、未使用残額がある場合には、被相続人の財産としてカウントされますので注意が必要です。被相続人のために使用した金額の領収書を保存しておくことで証明できます。
これとは別に、被相続人の口座からまとまった金額を引き出す場合がありますが、これは税務調査で必ず調査対象となるところですので、少なくとも過去5年程度は大きな出金について事前準備として調べておかれることをお勧めいたします。
③ ヘソクリ預金について
問題のヘソクリ預金についてです。特に配偶者が専業主婦等である場合、家計のやりくりをしてヘソクリを預金として蓄えるのはよく見られることです。これは奥様のご努力でコツコツと積み上げたもので、かつ、通帳や印鑑の管理などすべての行為を奥様自身の手で行っているので、通常の考えでは当然に奥様の財産と考えてしまいますが、税務上はヘソクリ相当分について、被相続人から奥様に贈与されたという証明ができない限り相続財産としてカウントされます。
一般的にはヘソクリ分を贈与するという考えはほとんど存在しません。黙って蓄えるのでヘソクリ預金と呼ばれる所以ですので贈与の発想はとても出てこないと思います。相続の税務調査でヘソクリ預金を否認されないためには、やはり、一年分の生活費の残高である○○円を配偶者に贈与するという記録を残しておくことが良いように思います。
ただ、以前に奥様が働いていた場合には、その金額は奥様固有の財産になりますので、ある程度は過去の所得を証明できるようにしておかれるとよいでしょう。
ここで特に厄介な問題があります。それは、このヘソクリ預金についての時効は存在しないということです。つまり、そのヘソクリ預金の原資が被相続人である限り、全額が相続税の課税対象にされてしまいます。相続税の税務調査の対象になるご家庭では、比較的多くのヘソクリ預金が存在するとの前提で、調査官が入りますので逃れるすべはないとお考えされた方がよいようです。
ここで忘れてはならないことは、税務調査が入るということはご家族の銀行口座は全て調べたうえでの調査ですので、下手に隠し立てしますと仮装隠ぺいなど重加算税の対象となる場合がありますので、調査が入った場合には正直に申立てすることをお勧めいたします。
④ 名義株について
ここで記述する名義株については、税務調査時にヘソクリ預金と同様に大きな問題となる場合があります。
特に注意すべきは、平成2年の商法改正前に設立された株式会社のケースです。
当時の商法では、株式会社を設立する場合には7名以上の発起人が必要であったため、創業者の親族が株主になっている場合が多く見受けられます。このような会社設立では、一般的には創業者以外の方が資金を拠出するケースはほとんどないため、創業者に相続が起こった場合には、会社の規模にもよりますが、会社設立後30年近くを経過していることから、財産としての評価額はかなり高額になってしまいます。
創業当時に発起人の負担分を創業者が贈与したとの証明ができておれば相続人の持ち分については相続の問題は起こりませんが、相続人の持ち分であることの証明ができない場合には、名義株と判断されて相続財産にカウントされることになりますので、この点は注意が必要です。
また、このケースで会社の業績が好調で名義人が毎年多額の配当金を受け取っていたとしても、創業時の贈与の事実が証明できない限り、名義株と判定されることになります。結局、配当を受け取っているか否かは名義株の判定には影響しないということになりますので、このケースに該当されると思われる方は事前に専門家とよく相談されることをお勧めします。
莫大な相続税の納付になることもありますので、要注意です。